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路上や職場、学校、それに家庭で急に人が倒れた場合、慌てずに応急手当てをする自信はありますか?
119番通報を受ける消防の指令センターでは、患者が心停止していて、必要だと判断した場合、通報してきた人に「患者に心臓マッサージをしてください」とお願いをすることがあります。
ところが、こうした要請をしても、3割のケースで心臓マッサージが行われていないことが、金沢大学の研究で明らかになりました。
心停止してからの数分間。あなたの協力が命を救うことになります。
(大阪放送局記者 三谷維摩)
■頼んでも3割で処置行われず
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研究を行ったのは、金沢大学附属病院の後藤由和救急部長のグループです。
路上や家庭などで事故や事件ではなく、心臓発作など、病気が原因で心停止状態になった患者が、119番通報のあと、どのような手当てを受けたか調べました。
平成25年から28年までの4年間に心停止状態の人を見かけて119番通報をした人に対して、消防の担当者が、心臓マッサージなどの心肺蘇生の処置を行うよう、依頼していた事例は全国で23万1705件にのぼりました。
ところがこのうちの32%にあたる7万3547件で、心肺蘇生の処置が行われていないことがわかったのです。
今回の研究では、処置が行われなかった理由は、はっきりしていません。
後藤救急部長によりますと、通報した人がやり方を知らずに怖がったり、倒れている人と性別が異なりちゅうちょしたりしたことなどが考えられるということです。
■救命に影響が
心臓が停止すると、救命率は1分ごとに10%ほど下がり続けると言われています。
一方、救急車が到着するまでにかかる時間は、総務省消防庁のまとめで、平均でおよそ8分。その間に心肺蘇生が行われるかどうかが、患者の命に関わってきます。
今回の研究では、患者の生存率に差が出ていることも確認されました。
生存率は、▼処置が行われた場合、男性で6.7%、女性で3.3%なのに対し、▼行われなかった場合は、男性で3.2%、女性で2.3%でした。
男性で2倍、女性で1.5倍の差が出ていたのです。
後藤救急部長は、その場に居合わせた人が、心肺蘇生を行う重要性を強調します。
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「救命処置は時間との勝負で、心肺蘇生に関する知識を広げる必要がある。家族や、路上で通りかかった人が急に具合が悪くなったらどうするのか、シミュレーションしてほしい。そのためには訓練が大切で、町内会や消防の講習会などに参加してほしい」
■正しい心臓マッサージは
では、心停止の状態で倒れている人を見かけた場合、適切な応急手当ては、どのように行えばいいのでしょうか。
大阪市消防局で教えてもらいました。
教えてくれたのは、友林裕人消防司令補。市内各地の講習会で、正しい心臓マッサージのやり方を紹介しているベテランです。
まず、1人ですべて対応しようとせず、できるだけ複数の人で対応することが大切だと指摘します。
倒れている人の肩をたたきながら大きな声で「大丈夫ですか」と声をかけ、意識がないようなら、周囲の人と協力して119番通報をしたり、AEDを探したりします。
続いて、心臓マッサージを行います。
お手本を動画でまとめました(約40秒)。
重要なポイントは、
胸を圧迫する位置
速度
強さ
の3つです。
まずは圧迫する場所です。
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胸の中心部で、みぞおちの辺りよりも少し上のちょうど心臓にあたる部分です。
続いて速度です。
1分間に100回から120回ほどを目安に、テンポよく圧迫します。
そして強さです。
胸が5センチほど下がるくらいが目安です。
強く圧迫する必要があり、ひじを曲げずに体重をかけてまっすぐ押すことが大切だということです。
この速度と強さで圧迫を続けるのは体力が必要です。
このため、数人で交代しながら、救急隊が到着するまで、心臓マッサージを続けてほしいとのことでした。
取材で、心臓マッサージを実演する様子を横で見ていると、「え?こんなに体がへこむくらい押していいの?」と思ってしまうほどでした。
動画をご覧になっても、マネキンの胸の辺りが、大きくへこんでますよね。
そんな懸念を伝えると、友林さんは、ろっ骨が折れるのではないかと心配になるかもしれませんが、心臓に圧力をかけるためにも、ためらわずに強く押すことが大切だと話していました。
また、女性が倒れていて服を脱がすのがためらわれる場合は、圧迫する場所さえ間違わなければ、服の上から、心臓マッサージをしても差し支えないということです。
友林さんは「手当てをするときは不安な気持ちになるかもしれませんが、放っておいては、まず助かりません。多くの方に応急手当てをしてもらいたいです」と話していました。
■心臓マッサージで助かった人
「周りの人の手助けがなかったら自分の命はなかった。多くの人に心臓マッサージの知識を持ってほしい」
こう振り返るのは、大阪・羽曳野市の村田忠彦さん。
周囲の人の心臓マッサージのおかげで命が救われた1人です。
村田さんは平成30年3月、大阪府内で開かれたマラソン大会に参加しました。
フルマラソンは初挑戦で、ゆっくりと淀川沿いを走っていたところ、2時間30分ほどたった、19キロ地点で、突然、倒れました。
近くにいた審判のボランティアの男性が倒れる様子を目撃していて、すぐに駆け寄ったほか、通りかかったランナー数人も心臓マッサージに加わったということです。
AEDもすぐに届けられました。
心臓は最大で8分間、止まっていたということですが、いまは日常生活を送るのに大きな支障がない程度まで回復しました。
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「すぐにいろんな人が手助けしてくれたからいまの自分の命があります。勇気を持って近づいてくださった方には感謝の言葉しかありません。いつ目の前で人が倒れるか分からないので、多くの人に心臓マッサージの知識を持ってもらいたいです」
村田さんは、当初、誰が助けてくれたのか分からず、翌年のマラソン大会に出向いて探し出したそうです。助けてくれた人の中には、まだ1人、名前も分からず連絡がついていない人がいて、村田さんは、探し出してお礼を言いたいと話しています。
突然の心停止は、自分や家族、友人、誰にでも起きうる事態です。
偶然、その場に居合わせた人にしか、倒れた人を助けることはできません。
万が一、自分が処置を頼まれたときは、勇気を持って行動できるようにありたいと感じました。
大阪市消防局では、定期的に、心臓マッサージの講習会を開いています。
詳しくは、消防局のホームページまで。
また、大阪市以外でも、お住まいの地域の消防署が講習会を開いているケースが多いです。一度、確認してみてください。
(※NHKのサイトを離れます)
https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000428092.html
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